2022年12月1日 直系尊属から住宅取得資金の贈与は相続税の節税効果はある?ない?

東京オリンピック後、不動産価格は下がるという大方の予想を裏切って不動産価格は高騰しています。住宅ローン金利も低金利という追い風もあり、自己居住用の分譲マンション、新築戸建ての販売価格も頭打ち感は若干あるものの首都圏を中心に高騰をしています。

この様な背景もあり、相続税対策として子世代が住宅を購入する際に親から子へ住宅取得資金贈与を検討する場合があります。しかし相続税の節税効果はいかほどでしょう?

節税効果で得た節税額を贈与したことによる投資効果として考えてみましょう。

例えば100万円贈与して10万円の相続税の節税効果があれば10%(10万円÷100万円×100)の投資効果となります。

 

◆ 直系尊属からの住宅取得資金の贈与とは?

 直系尊属(祖父、祖母、父、母)から子、孫へ自己の居住用の家屋の取得または増改築のための資金として令和4年1月1日から令和5年12月31日までに贈与した場合は一定の要件を満たすことにより、非課税限度額まで贈与税が非課税になります。

非課税限度額は次の限度額となります。

①省エネ等住宅:1000万円

②上記以外の住宅:500万円

詳しくは以下、国税庁のHPから詳細はご確認下さい。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0022005-028.pdf

 

では、本題の節税効果についてみていきます。

 

◆ 例えば、65歳で相続財産1億円があり相続人が配偶者、子供2人のケース

 85歳で相続が発生したとして現状での相続税の総額は316万円になります。この制度を活用し65歳時点で子供へ1000万円の贈与をして相続財産が9000万円の場合、85歳で相続が発生したとすると相続税の総額は240万円です。つまり、節税額としては76万円(316万円―240万円)です。投資効果で考えると65歳で1000万円を贈与して20年後(85歳)に得られた節税額は76万円です。投資効果としてはわずか0.36%です。効果が表れるのは今の65歳ではなく20年後の85歳です。

そして1億円の相続財産規模からみるとわずか0.04%です。

しかし、もう一方で別の見方もできます。1000万円の贈与を受けたことにより、1000万円を住宅ローンで借入を無くした場合の金利削減効果です。

 

◆ 借入額1000万円、住宅ローン金利1% 20年返済のケース

 住宅ローン金利は35年間固定金利として1000万円借り入れた場合でシミュレーションすると総返済額は1104万円になります。つまり104万円の金利削減効果があったことになります。

このファミリーの財産の中で節税効果と金利削減効果を投資効果と考えて合計180万円(76万+104万円)の投資効果があることになります。この効果もいまではなく20年後を想定したシミュレーションでつまり20年間で0.8%の投資効果になります。

 

◆ この結果から見えることとして

 この住宅取得資金の贈与制度は親世代から子世代へ資産を移転し、経済の活性化を目的とした趣旨で考えられた制度であります。したがって資産形成という観点で見ると少し見劣りするように感じます。

また相続税節税という観点で見ても相続財産の資産規模が大きくなればなるほど節税効果はあまりありません。本ケースでも1億円の財産規模でわずか節税効果は0.04%に過ぎません。つまり財産規模が更に大きくなれば節税効果は更に薄いものになります。

 この様に生前贈与で相続税の節税を検討する場合はその時の節税額ではなく節税率で考える観点が必要になります。

 

 

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一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)   田邊 和弘  

専門分野: 不動産投資、不動産相続、不動産管理

主な資格: CFP®宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、CPM®(米国公認不動産賃貸経営管理士)

 

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