2023年3月24日、日経新聞に「米株投信手数料競争が過熱」という記事が掲載されました。内容は『2024年1月から始まる新NISAを視野に既に前哨戦が始まっている。アセットマネージメントOneはたわらノーロード米国株式S&P500に連動する投信の信託報酬を0.09372%と業界最低水準に引き下げた。これを受け三菱UFJ国際投信もS&P500連動型投信の信託報酬を同水準に引き下げると発表した。』このような信託報酬引き下げ競争は私たち一般投資家にとってメリットがあるために、大いに気になるところです。
◆ 信託報酬は将来のコスト確定
投資信託を新規購入する時に検討する項目は、①基準価格 ②純資産 ③騰落率 ④信託報酬 ⑤買付手数料 ⑥シャープレシオ ⑦標準偏差 ⑧運用方針等、様々なものがあります。だれもが気になる将来の騰落率は誰も予測することはできませんが、信託報酬のコストは購入する際に確定されます。であればほぼ同じ投資対象の商品であれば、信託報酬の率が低い方がいいに越したことはありません。つまりコストを考える時には「信託報酬」を比較しておけば特段の問題は無かったのです。特に私はそう思っていました。
◆ 総経費率の記載義務化
ところが2023年6月9日、日経新聞に「投信購入時 総コスト開示」という記事が掲載されました。内容は『2024年4月から投資信託のコスト開示が変わる。購入時に投資家に渡す目論見書に信託報酬を含めた「総コスト」を表示し、その総コストを合計し投資信託の純資産残高に対する比率を「総経費率」として記載することを、投資信託協会が運用会社約200社に義務付けた。』今でも一定期間運用している投信であれば「交付運用報告書」で総経費率を確認することが出来きることになっていますが、新規設定する投信は運用報告書が出るまで分からない仕組みでした。つまりコストとは信託報酬のみでなく総経費率という考え方を採用し、目に触れやすい目論見書に記載することで、投資家負担をより明確にしようとする金融庁の考えに沿ったものと思われます。
◆ その他コストの内訳は?
投資家が運用期間中に負担するコストは信託報酬だと思っていますが、それはコストの一部に過ぎず、その他費用を加えた真のコストである「総コスト」がどのくらいなのかを知ることが重要です。信託報酬以外の「その他コスト」とは、①外貨建て資産の保管費用 ②監査費用 ③印刷費用 ④参照指数の使用料などがあげられます。ほとんどの一般投資家は初めて聞く言葉ではないかと思います。
◆ 信託報酬と総経費率の比率は?
それでは純資産総額に対する信託報酬の割合と総経費率はどのくらい違うのでしょうか。2023年4月29日、日経新聞によると、対資産別平均では、国内株型の総経費率は信託報酬の1.04倍、先進国株型は1.11倍、新興国株型は1.27倍、国内債券型は1.03倍と示されています。しかし個別の投信では総経費率が信託報酬の10倍を越えるものもあると書かれています。
◆ 目論見書への掲載
実際に7月以降三菱UFJ国際投信がすべての投資信託の目論見書に順次総経費率を先行開示するとしているので参考にしてみます。三菱UFJ Jリートオープン(毎月決算型)の目論見書から引用します。下記のような形で掲載されています。
◆ 交付運用報告書への掲載
毎期事に交付運用報告書が証券会社より送られてきています。中身を詳細確認していますか。特に気になる投信以外はほとんど見ていないのではないですか。
米国製造業株式ファンド(愛称:USルネサンス)の交付運用報告書に総経費率が開示されているので参考にしてください。下記のような形で掲載されています。
◆ 総経費率の見極めは?
では総経費率の高くなりやすい投資信託を見極める手掛かりは純資産総額かもしれません。資産規模の大小にかかわらず一定額発生する経費、例えば監査費用などは純資産総額が小さければかかる費用の率の割合が大きくなるのは必然です。
◆ 私たちの投資行動
新NISAの始動前、私たち一般投資家が注意することは、安易に超低信託報酬の投資信託に飛びつくのではなく、総経費率を目論見書などで確認してから選択するなど、基本に立ち返った投資行動が求められます。
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一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC) 網野 俊
専門分野:
保険見直し、ライフプラン設計、資産運用
主な資格:
CFP®、1級FP技能士、DCプランナー、証券外務員Ⅱ種、生保:トータルライフコンサルタント
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