家族がもしもの時に、遺言があれば遺言どおりに相続することができますが、遺言が無かった場合はどうでしょうか。
令和元年に亡くなった方(被相続人)は、約137.6万人(厚生労働省2019年人口動態統計の年間推計)と推計されていますが、一方、同年に公正証書遺言を作成した方は113,137人(日本公証人連合会HP)、また自筆証書遺言の検認件数は17,487人(平成30年度司法統計)となっていて、毎年同数程度の自筆証書遺言が作成されていると思われます。このように、亡くなった方に対して遺言を作成された方は10%に満たない状況になっています。
このため、相続人同士が円満な相続をするためにも、遺産分割協議書の作成について考えてみてはいかがでしょうか。
Ⅰ.遺産分割協議書とは
相続財産の分割は原則として、被相続人が遺言を残した場合は遺言に従って分割することになりますが、遺言が存しない場合は相続人が全員で協議のうえ分割内容を決定し、遺産分割協議書を作成することで遺産分割協議書に従って分割することができます。
遺産分割協議書は、全ての相続人が参加した遺産分割協議において、合意に至った内容を書面に取り纏めた書類のことで、「不動産の相続登記」や「預貯金・株式・自動車などの名義変更の手続き」を行う際に必要になります。また、一度合意した遺産分割協議は原則として全員の合意がなければ、変更ができませんので注意が必要です。
1.遺産分割協議書の様式
遺産分割協議書の作成には、決められた方式はなく書式は自由です。
2.遺産分割協議書作成のポイント
(1)誰がどの遺産を取得するかを具体的に記載します。
(2)遺産分割協議後に発見された遺産(原則として債務を含む)の扱いを明確にします。
(3)住所は、住民票又は印鑑証明のとおりに記載します。
(4)不動産の表示は、登記簿に記載されているとおりに記載します。
(5)印鑑は、実印で押印します。
不動産や預貯金の名義変更の際に添付資料として、印鑑証明が必要になります。
(6)遺産分割協議書が複数ページになる場合は、契印(割印)することが必要です。
Ⅱ.遺産分割協議書の作成に必要な事項(準備しておくこと)
1.遺言書有無の確認と遺産分割協議書の効力
遺言によって遺産の承継者が指定されている場合は遺言により分割されますが、遺言があった場合でも、相続人全員の合意がある場合は、相続人に遺贈されている遺産については遺言と異なる遺産分割が可能になります。
2.相続人の調査
誰が相続人なのかを確定させる必要がありますので、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本と相続人全員の現在の戸籍謄本を取得する必要があます。戸籍謄本は、本籍地の市町村役場で交付を受けられます。
3.相続財産の調査
(1)遺産分割の対象となる財産を明確にするための調査を行います。
プラスの財産(積極財産)だけでなくマイナスの財産(消極財産)についても調べます。
(2)不動産や美術品・骨董品などは、どのくらいの価値があるのかの評価が必要になります。
納税のための評価は法令・通達で決まっていますが、遺産分割のための財産評価は決まりがありませんので、
当事者同士が納得した評価で行います。(通常は市場価格で評価する)
4.相続の放棄
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない手続きです。その場合、相続放棄者は初めから相続人とならなかったことになります。
相続放棄は、家庭裁判所に原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続放棄の申述を行う必要があり、申述受理証明書の交付を受けられます。(単独可)
5.寄与分や特別受益
遺産分割協議時に「寄与分」や「特別受益」について主張することがあります。
寄与分や特別受益の主張があった場合は、寄与分や特別受益があったことの証拠となる介護状況の資料や贈与契約書等の書類を収集して事実に基づき協議することが大事になります。
Ⅲ.遺産分割協議書の作成
当事者全員が同意できる内容が決まりましたら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、相続放棄をした人を除く全員の署名と押印(実印)が必要になります。
実印の確認:相続人全員の「印鑑登録証明書」を収集し付け合わせをして下さい。
1.遺産分割協議書作成に必ず必要な書類
(1)被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本。
(2)各相続人と被相続人との関係が確認できる戸籍抄本又は戸籍謄本。
(3)財産目録。
(4)相続人全員の印鑑登録証明書。
2.遺産分割協議書作成の手順(パソコン・手書きも可)
(1)タイトルは「遺産分割協議書」と記載します。
(2)被相続人の最終の本籍地と住所地を記載しておいた方がよいでしょう。(住民票と戸籍を参考)
(3)被相続人の氏名・死亡日を記載した上で、前書きを記載します。
(4)誰がどの遺産を相続するかを記載していきます。
順番に決まりはありませんが、通常は年齢が上の者から順に記していきます。
第1条としても、数字だけ1、2としても、アルファベットでも法律上問題はありません。
(5)遺産の記載が終われば、次に借金等の債務の記載をします。
なお、相続人間で可分債務の負担承継者を決めても、債権者の承諾が必要になります。
(6)「後日判明した財産(債務を含む)」についてどうするのかの記載をします。
(7)作成年月日を記載します。
(8)相続人全員の住所・氏名を記載の上、実印(認印不可)にて押印します。
(9)複数枚になる場合には、各葉に実印で割印するか、製本して実印で割印を押印して完成です。
3.遺産分割協議書の提出が必要な主な手続き
遺産分割協議書が必要となるのは、遺産分割により財産を取得した場合です。
遺言により、財産を取得した場合や、相続人が一人しかいない場合には、遺産分割協議書は必要ありませんが、主に次の手続きの際には遺産分割協議書が必要になります。
(1)遺産分割により取得した不動産の登記。
(2)遺産分割により取得した預貯金の名義変更または払い戻し。
(3)遺産分割により取得した有価証券の名義変更。
(4)遺産分割により取得した自動車の名義変更。
(5)遺産分割により取得した遺産にかかる相続税の申告。
一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC) 大庭 和夫 1級FP技能士
KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献するこ とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。 |
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