人生100年時代という言葉が定着し、老後のための資産形成を考える方が増えています。大手都市銀行の定期預金(1年もの)の金利が年率0.002%の現在、公的年金の受給額を年率8.4%で安心・確実に増やすことができることをご存じでしょうか
公的年金(厚生年金・国民年金)は、満65歳からの受給開始時期を繰下げることで、年金額が月0.7%、年間8.4%増やせる制度があります。最大5年間受給を繰下げることが可能で最大42.0%の増額になり生涯受給することができます。
1.公的年金の繰上げ受給と繰下げ受給制度の概要
公的年金は、原則として65歳から受け取ることができますが、希望すれば60歳から70歳の間で自由に受給開始時期を選択することができます。65歳より早く受け取る場合(繰上げ受給)には減額(最大30%減額)した年金を、65歳より遅く受け取る場合(繰下げ受給)には増額(最大42%増額)した年金を、それぞれ生涯を通じて受け取ることができる制度です。
なお、令和4年4月からは繰下げ年齢を現行の70歳から75歳まで引き上げ、最大84%増額した年金を生涯受け取れる制度が決まっています。また、繰上げ受給した場合の減額は最大24%減額に改正されます。今回は、繰下げ受給について焦点をあて考察してみます。
※公的年金の繰上げ・繰下げ受給の概念図 (出典:厚労省hp)
2.公的年金繰下げの3つの種類と手続きの方法
(1)老齢基礎年金(国民年金)のみ繰下げる方法
老齢基礎年金のみ繰下げる場合は、「年金請求書」を提出する際に「老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ申請書」に繰下げを希望する年金欄の「老齢基礎年金の繰下げを申し出ます。」に○印を付けて提出することで手続きができます。
(2)老齢厚生年金(報酬比例年金)のみ繰下げる方法
厚生年金のみを繰下げる場合は、「年金請求書」を提出する際に「老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ申請書」に繰下げを希望する年金欄の「老齢厚生年金の繰下げを申し出ます。」に○印を付けて提出することで手続きができます。
(3)老齢基礎年金および老齢厚生年金の両方を繰下げる方法
老齢基礎年金および老齢厚生年金の両方を繰下げる場合は、年金請求書を提出しないことで、受給開始時期を繰下げられることになります。
3.公的年金を繰下げ受給する場合の注意点
(1)公的年金は請求しない限り支払いされません。繰下げ受給を選択した場合はご自身のライフプランに合わせて、最適な時期に必ず請求(年金請求書を提出)することが必要です。66歳の誕生月以降の毎月、繰下げ受給を開始することができます。
(2)年金の請求には、時効(5年)がありますので注意が必要です。
(3)繰下げ受給は、事前に何歳から受給するという予約はできません。
(4)65歳の時点で、遺族年金や障害年金など既に他の年金を受給している方は、繰下げ受給することはできません。
(5)公的年金は貯蓄ではなく、生存していないと受給できません。繰下げ受給を選択する場合は、熟慮して決めることが大事です。
(6)厚生労働省の統計資料(令和元年簡易生命表)によりますと、男性の平均寿命は 81.41 年、女性の平均寿命は 87.45 年となっています。一方70歳から繰下げ受給した場合の損益分岐点は、82歳以降生きていればプラスになるそうです。
(7)繰下げ受給を選択した場合、付加年金は自動的に繰下げされますが、振替加算や加給年金は繰下げできません。
4.公的年金繰下げ受給の賢い使い方
公的年金は無職高齢者世帯の収入の約8割を占めています。老後資金をいくら確保したらいいのでしょうか。生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査」によりますと、 老後資金を使用開始する平均年齢は65.9歳となっており、平均寿命までの約20年間で使うお金を準備することが目標になるとの統計がでています。
公的年金を繰下げ受給する場合、やみくもに繰り下げるのではなく、ご自身のライフプラン(ライフイベントやキャッシュフローを作成し)に合わせて何歳から受給したら一番効果があるのかを見極め決めることが大事になります。早めにライフプランを作成し、将来の安心をつかむ一要因として公的年金の繰下げ受給も選択肢に入れてはどうでしょうか。
一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC) 大庭 和夫 1級FP技能士
KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献するこ とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。 |
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